アートの島、瀬戸内・直島の「南北分断」

 

 瀬戸内海の海上交通拠点のひとつ、宇野港(岡山県玉野市)の船着き場から島の姿はもう見えています。フェリー(片道300円)に乗ってわずか20分弱、島の玄関口である宮浦港に船が入ると、埠頭の公園に、芸術家の草間彌生氏が手がけた「赤かぼちゃ」の造形物が目にとびこんで来ます。

 


備讃瀬戸に浮かぶ直島(香川県直島町)はアートの島「Naoshima」として海外でも広く名が知られている観光地です。宇野港からのフェリーには、コロナ禍のさなかの2021年春でも西洋人や中国人の観光客が乗っていました。おそらく日本国内在住の外国人と思われますが、ぜひ足を運んでみたい島なのでしょう。

宇野港は、JR岡山駅から茶山町駅を経由して宇野駅で降りてすぐです。1988年春に瀬戸大橋が開通するまで、宇野港と高松港を往来する「宇高連絡船」が本州と四国を結ぶ主要ルートで、宇野港は本州側の玄関口でした。

宇野港からはいまも直島、豊島、小豆島などに向かう船が行き来しています。直島、豊島は高松港を結ぶ便数よりも多く、島民の多くは買い物などで宇野に渡って来るようです。瀬戸内の島には、行政区は香川県になっていても暮らしや経済活動では岡山県の方が結びつきが強い島が少なくありません。

直島はその代表例です。岡山を拠点にするベネッセグループが島の自然美に着目し、1990年代から数々の芸術施設を造っていなければ、いまの直島の姿はなかったでしょう。

ベネッセハウスミュージアム、李禹煥美術館、地中美術館。島の南岸部に位置する「ベネッセアートサイト直島」は、非日常が演出された空間です。浜辺にはゴミひとつ落ちておらず、海辺にきれいに整地された芝地に、造形物が建っています。




主要な観光サイトをめぐる町営バス(乗車1回100円)が走り、レンタサイクルも多く、気軽に島めぐりを楽しめます。機会があれば、ぜひ一度は足を運んでほしい、瀬戸内海でおすすめの島です。

ただ、島を何度か巡ったことのある私は、直島は南北で「分断」されていると感じます。

島のアート関連の建物はすべて、島の南側に集まっています。直島町観光協会作成のガイドマップでも、紹介しているのは島の南側です。観光客が島の北側に足を運ぶことは、ほとんどないでしょう。

ここには電気銅や金などの貴金属を製造する三菱マテリアル直島精錬所があります。

1917(大正6)年に創業した精錬所には昭和の太平洋戦争期、延べ千数百人の朝鮮人労働者が働いていました。戦時中の人手不足を補うため、精錬所は職員を植民地朝鮮に派遣し、現地の警察や役所の協力を得て農村部から労働者を集めています。

「募集」「官斡旋」「徴用」と手順は変わりますが、本人の意に反して直島へ連れて来られた人もいたでしょう。過酷な労働に耐えかね、船で逃亡をはかった労働者や、死亡した労働者もいました。島にそんな歴史があったことを示す展示物は見当たりません。



きらびやかなアートの島には、そんな陰の歴史もあるのです。

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