一日歩きお遍路さん

四国八十八カ所霊場をめぐる遍路の旅。

約1400キロにも及ぶとされる遍路道を、いつの日か、1番札所から88番札所まで歩き通し、「結願(けちがん)」を果たすのが夢です。しかし、雇われの身分では連続してとれる休暇にも限りがあり、なかなか叶いません。

そこで、取り組んでいるのが「一日歩き遍路」です。




列車やバスといった公共交通機関を利用して、その日のスタートの札所近くまで行き、一日で行けるところまで歩き通します。

遍路を開祖した弘法大師空海には叱られそうですが、自動車で回るよりは、むかしのお遍路さんの気分に少しでも近づけるのではないかと、休みを利用して時々挑んでいます。

 

四国遍路をすべて巡ったわけではないので断言はできませんが、比較的短い時間でいちばん多くの札所を回れるのが、13番札所から17番札所までの遍路道ではないかと思います。

いずれも、徳島市西部にある札所です。

私が歩いてみたのは2021年2月。立春を少し過ぎた、比較的穏やかな気候の週末でした。

JR徳島駅前の13番バス乗り場から、午前10時15分発の神山高校行きのバスに乗り、約半時間で一の宮札所前につきます。バス停の名の由来である一宮神社は、阿波国の総鎮守です。戦国時代、土佐の長宗我部氏が阿波に攻め入ったさい、社殿がすべて焼失してしまい、のちに阿波を治めた蜂須賀氏の庇護を受けて再興されたそうです。

13番札所の大日寺は、県道21号を挟んで神社と向かい合っています。かつては一宮寺とも呼ばれたそうで、明治時代の神仏分離令で独立した、と説明にありました。

大日寺の近くには、お遍路さんのための宿がいくつかあります。

ここから鮎喰川(あくいがわ)という吉野川の支流沿いに広がる平野部を、東の方へと歩いていきます。



歩き遍路のため、道ばたに矢印で記した道標が立っていたり、シールが街路灯にはられていたりします。太陽の位置を見上げながら東の方へと大まかな方角を意識し、道案内に従って歩けば、なんとか次の札所にたどり着くことができます。車が激しく行き交い、否応にも排気ガスを吸ってしまう車道沿いを歩くよりも、気分はいいです。

キャベツ畑が広がる穏やかな田園地帯を歩いていくと、14番札所・常楽寺、15番札所・国分寺にたどりつきます。



阿波の国の山並みは、なめらかに尾根筋が延びています。讃岐のような、三角形のおにぎりがぽこぽこと並んでいるような山並みとは異なります。四国でも地域によって、風景は異なります。

15番札所の国分寺から16番札所の観音寺、そして17番札所の井戸寺へと至る道程は周囲の住宅も増え、やむを得ず車の多い車道沿いを歩く場面が増えます。出発点よりは徳島市中心部に近づいているからでしょう。

常楽寺を含む4つの札所は、徳島市国府町というところにあります。この国分は、鮎喰川の伏流水を利用して、むかしから藍染めが盛んだったそうです。だからでしょうか、道を歩きながら大きな家が多いと感じました。構えが立派で、敷地内にいくつも建物がある家もあります。

途中、おにぎり2個の昼食休憩もとり、比較的ゆっくり歩きましたが、約3時間で井戸寺につきました。

札所では本堂と大師堂の前でそれぞれ般若心経を朗読していますが、この日は有り難いことに1日で10回も般若心経をよむことができました。



井戸寺の納経所で朱印と墨書を納経帳に授かり、この日の歩き遍路は終了です。次の札所までは約20キロの表示。残念ながら、納経所のあいている夕方の5時までにたどり着けそうにありません。

お寺の近くの井戸寺口というバス停に出ると、14時4分発というちょうどいい時間にJR徳島駅行きのバスがありました。これを逃すと、次のバスは4時間後。最寄りのJR徳島線の駅まで出るしかありません。またまた弘法大師空海には怒られそうですが、バスでJR徳島駅に戻りました。

どれぐらい歩いたかを調べてみました。

13番札所・大日寺~2・5キロ~14番札所・常楽寺~1・0キロ~15番札所・国分寺~2・0キロ~16番札所・観音寺~2・9キロ~17番札所・井戸寺

(四国ツーリズム機構作成の冊子「四国遍路へ出かけよう!」から)

総行程は8・4キロでした。むかしの人なら、日常的に歩いた距離でしょうか。高低差もなく、心地よい疲労感です。

1日で5カ所も札所をまわると、なんだか得した気分になります。徳島市の西部にある五つの札所は、遍路を試してみるには最適の行程です。



 

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