空海も見た!?絶景

 

四国遍路88カ所の霊場は、海を見渡す岬の突端近くに立つ寺院があれば、田園地帯の住宅地の中にぽつんと立つお寺もあります。

さまざまな立地のお寺があるなかで、標高の最も高い所にあるのが66番札所の雲辺寺(うんぺんじ)です。香川県でもっとも西側にある観音寺市と、徳島県の三好市にまたがる雲辺寺山(標高927メートル)の山頂付近にあります。

阿波(徳島県)、土佐(高知県)、伊予(愛媛県)と、四国を時計回りに巡る遍路の中で、最後を締めくくる「涅槃」の地、讃岐(香川県)の最初の札所に位置づけられていますが、境内は県境を越えた徳島側の木立の中にあり、お寺の住所地は徳島県三好市(旧池田町)になっています。

 お寺の沿革によれば、弘法大師空海がお堂を立て、本尊を彫って四国遍路に定めたといいます。かつては四国の僧侶たちが学問修業のために集う「四国高野」と呼ばれて栄えたそうです。「高野」の名にふさわしい山奥にあったということでしょう。

 四国遍路を歩き通すお遍路さんにとっては、たどり着くのが大変な屈指の難所です。65番札所の三角寺(愛媛県四国中央市)から66番札所の雲辺寺への登り道、雲辺寺から67番札所の大興寺(香川県三豊市)への下りの道とも険しい山道で、「遍路ころがし」と呼ばれています。

 ただ、いまは山麓からあっという間に山頂までたどり着くことができます。

公共交通機関を使って、行ってみました。

 

最寄り駅は、JR予讃線の観音寺駅になります。駅前の観光案内所にレンタサイクルがあり、電動自転車(1000円+返却すれば戻ってくる保証金1000円)をかりました。スタッフの人に地図をもらい、ひたすら山の方へと向かいます。ペダルを踏むこと約1時間。みかん畑の中の坂道を抜け、「雲辺寺ロープウェイ」の山麓駅にたどり着きました。

ここから標高916メートルの地点まで、高低差657メートル、全長2594メートルを約7分で一気にのぼってしまうロープウェーがあります。

 苦労して急峻な山を一歩一歩登るお遍路さんには怒られそうですが、時間節約のため、短い空中の旅を楽しみました。往復で大人2200円(中・高校生1650円、小学生1100円)。毎時0分、20分、40分と20分間隔で運行しています。

 ゴンドラから見える眼下の景色は壮大です。



 穏やかな讃岐の田園風景が広がり、その向こうには青い瀬戸内海が広がっています。燧灘(ひうちなだ)の真ん中には「イリコ」の島として知られる伊吹島が浮かんでいます。瀬戸内海をまたぎ、遠く本州側の広島県福山市あたりまで見渡せます。東の方に目をうつすと、遠く瀬戸大橋も見渡せました。

足もとの山肌に目を移すと、うっすらと雪化粧していました。



訪れたのは四国も寒波に見舞われた1月下旬でした。標高916メートルの山頂駅の温度計は零下6度を示していました。

山頂部につくと、辺り一面が雪に覆われ、まるで別世界に来たかのようです。

山頂駅のすぐ目の前が香川と徳島の県境で、雲辺寺には少し坂を下って行きます。境内へと続く道のわきには「雲辺寺山 徳島県立自然公園」と記した標識が立てられていました。

お寺の境内は、坂道を少し下ったところにあります。喜怒哀楽、多様な表情をした五百羅漢像が出迎えてくれます。



周囲を高い木立に囲まれ、太陽の光があまり差し込まないためか、山頂付近よりも雪が積もっており、一面真っ白な銀世界です。お寺の納経所に詰めている職員から、路面が凍り、滑りやすいので足もとに気をつけるよう声をかけられました。


         

いつものように本堂と大師堂の前で手を合わせ、般若心経を朗読します。心身ともになんとか健康を維持し、無事お参りさせてもらったことに感謝します。とともに今回は、急逝して間もない親類の冥福を祈りました。納経所で納経帳に墨書と朱印を授けていただき、礼をして境内をあとにしました。

職場の異動で四国に赴任してから、休日にときどき足を運ぶ札所参りが、心を落ち着かせる場になっています。

いつの日か、1番札所から88番札所まで約1400キロメートルといわれる四国遍路を歩き通したいとの夢を抱きつつ、いまは、公共交通機関を使い、できるだけ歩くことを心がけながら、足をのばせる札所から巡っています。遍路のやり方もひとそれぞれ、遍路のもつ意味もひとそれぞれです。

四国各地に点在する八十八カ所霊場には、いろんな思いを抱えた人が足を運んでいます。「南無大師遍照金剛」と背中に書かれた白衣(びゃくえ)に身を包んだお遍路さんの姿は、四国の風景そのものでもあります。

 雲辺寺山には見晴らしのよい山頂公園があります。ここには2020年春まで香川県内で唯一のスキー場がありましたが、近年の暖冬による雪不足などで閉鎖になりました。

代わりに木のブランコが設置されています。目の前に広がる雄大な景色を背景に、まるで空を飛んでいるような写真が撮れることから「天空のブランコ」と呼ばれ、インスタ映えスポットとして若者らの人気を集めているようです。訪れた日も、若いカップルが互いにブランコにのる姿をスマホで撮っていました。



雪が次々と寒風に流され、絶好の眺望とはいえませんでしたが、時折、雲の切れ間から青い瀬戸内海も見えました。

むかし、やっとの思いで雲辺寺山にたどり着いた四国霊場の巡拝者も、そしてこの山奥の地に寺を開いた弘法大師空海も、眼下に広がる里と穏やかな瀬戸内海の景色を目にしたはずです。

雄大な自然の風景は時をこえてこの山を訪れるひとびとを引き寄せ、つないでいます。



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