「悪魔」の足跡は消せない! ハルビン郊外の「731部隊罪証陳列館」
戦後80年を迎えた今夏、筆者は中国黒竜江省の省都ハルビンに向かいました。別の目的があって初めて、北緯45度の北の地を訪ねたのですが、その合間にどうしても足を運びたかったのが郊外にあるこの場所でした。
命を奪われた被害者は数千人にのぼるとされています。妊婦を胎児ごと生体解剖したという元隊員の証言もあります。思わず吐き気を催してしまいます。
この陳列館は、悪名高き731部隊の残虐非道な悪行の数々を歴史として記録し、人類が二度とこのような非人道的行為を繰り返さぬよう、後世に伝えるために中国政府が建立したものです。かつての部隊本部の建物等が保存され、「全国重点保護文化財」として旧日本軍の蛮行を伝える拠点になっています。
部隊員の一部はソ連軍にとらえられ、戦後、ハバロフスクで戦犯として軍事裁判を受けました。731部隊が手をかけた非道な蛮行に関する証言は裁判記録として残り、見つかった音源等をもとにNHKが特集番組(『731部隊の真実~エリート医学者と人体実験~』(2017年度)をつくりました。深く印象に残る番組でした。森村誠一氏の「悪魔の飽食」をはじめ元部隊員らの取材に基づく刊行物もあります。
筆者が初めて731部隊の存在を知ったのは、1980年代後半、関西のとある中高一貫男子進学校で学んでいた時の「現代社会」の授業でした。教師の有志グループが作成した資料集には、731部隊の生体実験の様子の図解と元隊員の証言が掲載されていました。
陳列館にはまさに、その細菌生体実験の様子を再現した等身大の模型等がありました。
ハルビン郊外の陳列館では「どうして人間が、まだ生きている人間に対してこんなことができるのか」と思わず目を覆いたくなるような、筆舌に尽くしがたい蛮行の記録を見ることができます。陳列館で販売されている「関東軍第七三一部隊 罪証図録」(五州伝播出版社)の説明から、731部隊の悪行をたどります。
《人体実験を実施した七三一部隊員の多くは博士号を持っており、当時の日本医学界の細菌学、血清学、伝染病学等の分野の専門家だった。これらの医学博士たちは知識人、エリートとして、本来なら社会の良識と道徳を守り、国際法規や医学の倫理を遵守し、職業意識と道義的責任を持つべき人たちであった。しかし、彼らは愛国主義の名のもとに人体実験や細菌戦という悪事を働き、完全に人道主義の精神や生命倫理、医学規範、医学道徳に背き、反倫理、反文明、反人類という罪悪の深淵へと足を踏み入れたのである。》
しかし、このような極悪非道な蛮行を犯した者たちの多くが、戦後日本の官民学各界で復権し、重鎮となって日本の医療に影響を及ぼしました。私たち日本社会は、それをゆるしたのです。
731の幹部らの責任追及を怠るどころか、むしろその隠蔽を結果的に手助けし、復権をゆるしたことが、戦後の日本社会で薬害エイズ等、数々の薬害が引き起こされる一因になったといえるのではないでしょうか。彼らからすれば、患者は「医学発展のための実験材料」でしかなかったと言うのは過言でしょうか。
「悪魔の飽食」をふたたび繰り返さないため、本来は私たちが率先してこうした加害の実態を掘り起こし、資料館を作ってでも記録しなければなりませんでした。残念ながら戦後80年間、日本社会はそれを怠ってきたのです。
こうした加害の歴史を後世に伝えるための被害者の取り組みを「反日」とつきはなしていれば、そのしっぺ返しは、日本の医療を通じて、いつかまた私たち自身の身にふりかかってくるのではと、危惧します。
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