投稿

9月, 2022の投稿を表示しています

駅員がかつて116人いた無人駅

イメージ
    中国地方の内陸部、広島県の北東部にある庄原市の、そのまた北東部のすみっこ近くに「備後落合(びんご・おちあい)」というJR西日本の駅があります。  庄原市は東側は岡山県新見市、北側は鳥取県日南町と島根県奥出雲町に接しており、備後落合駅は、中国地方のへそのような位置にあります。      ここは広島と岡山の内陸部を結ぶ芸備(げいび)線と、島根県の宍道湖へと通じる木次(きすき)線が接続する乗り換えの拠点の駅。広島方面から来る列車と岡山方面から来る列車、島根方面から来る列車がちょうど「落ち合う」場所にあることから、備後落合と名付けられ、国鉄だった1940~50年代の最盛期には116人もの駅職員がいたそうです。しかし、今は無人駅で、駅の構内にも駅前にも飲料水の自動販売機すらありません。山間部の鉄道の歴史を象徴するような、山奥の駅を訪ねてみました。  駅名の由来や最盛期の様子を語ってくれたのは国鉄機関士だったというボランティアのガイド。 退職後も旧職場近くに住み、訪問客の案内を続けているそうです。 標高約450メートルの中国山地の山の中にある駅はかつて、瀬戸内海沿岸にある岡山の水島工業地帯から日本海側の山陰地方へと燃料等の工業製品を運ぶ貨物列車が通り、中国地方の中心都市・広島市と鳥取の米子市を結ぶ急行列車が往復していました。重い貨車や客車をひいて急勾配をのぼるため、蒸気機関車を二重、三重に連結したそうです。 古い木造駅舎の壁には、山あいをはしる蒸気機関車など往時の姿を伝える白黒写真の複写プリントが貼ってありました。「SLと生きる職場」と題し、蒸気機関車と接した国鉄マンのかつての仕事ぶりを説明した横断幕も掲げてありました。 山奥にこだまする汽笛の音を想像しました。あのにぎわいをもう一度という、元機関士の切なる願いを感じました。   2022年4月、JR西日本がローカル線の収支状況に関する数値データを発表し、注目を集めました。同社のホームページで公開しているニュース・リリースには「地域の皆様と各線区の実態や課題を共有することで、より具体的な議論をさせていただく」とあります。表現は抑えていますが、コロナ禍で近畿圏など都市部の乗客も減り、経営環境が厳しい中、赤字路線は廃止も念頭に地元と話し合いをすすめたい、との狙いが込められているのでしょう。 資料の一覧表には、JR

「韓流」の源流?!各地で芽吹く柳宗悦の「民藝」の種

イメージ
    岡山県倉敷市、鳥取県鳥取市、長野県松本市。いずれも歴史のある町ですが、さて、この3つのまちに共通するものは何でしょうか。正解は「民芸」の名を関した美術館があることです。       「民芸」とは、高名な芸術家がつくった作品だけが芸術ではなく、無名の職人が作り、民衆が日々の生活で使う工芸品にこそ美が宿るという芸術思想です。大正、昭和期に活躍した思想家の柳宗悦(やなぎ・むねよし、1889年~1961年)が提唱しました。  柳宗悦は、朝鮮で生活していた浅川伯教、巧(あさかわ・のりたか、たくみ)兄弟とともに、白磁をはじめとする朝鮮の民衆の暮らしに根ざした工芸品の魅力とそれを育んだ生活様式を広く日本列島にも伝えようと東京で美術展を開くなどし、朝鮮の生活文化の保護に尽力します。 朝鮮王宮の正門ともいえる光化門が破壊される危機にあると知るや、1922年(大正11年)に雑誌「改造」に「失われんとする一朝鮮建築のために」と題した一文を発表し、その保全を訴えたことでも知られています。 植民地支配体制のもとで「内鮮一体」を標語に掲げて同化政策を推し進め、日本語の強要や創氏改名を通して朝鮮の文化や生活様式を否定、抹殺しようとした時代風潮の中、朝鮮の文化を尊重し、その保全を訴えた勇気と誠意は、いくら時がたっても色あせず、師として見習いたいものです。 生活工芸品の中に宿る「美」という考え方は、芸術とは瀟洒な贅沢品であり、高貴なひとびとが楽しむものという既成概念への挑戦でもありました。そんな柳の思想に共感し、素朴な民芸品を収集した有志の人々が列島各地にいました。そんな貴重な収集品を収蔵し、それぞれの地域で民芸運動の拠点となった場を訪ねました。     白壁の旧商家が軒を連ねる岡山県倉敷市の美観地区。その一角に「倉敷民藝館」はあります。パンフレット等の説明によると、江戸時代後期に建てられた米蔵を活用して、1948年(昭和23年)に開館しました。柳宗悦が手かげた東京・駒場の日本民芸館が1936年(昭和11年)に開館したのに次いで、日本で2番目にできた民芸館とのことです。その誕生には、倉敷を代表する実業家の大原家が深く関わっています。 倉敷の美観地区を代表する白亜の大原美術館。その創立者としても知られる倉敷出身の実業家・大原孫三郎(おおはら・まごさぶろう)は、地域の工芸